樋口由紀子
たばこ屋から二軒目に鉈売っている
時実新子 (ときざね・しんこ) 1929~2007
商店街を歩くといろんな店が軒を連ねていて、ここに来れば、なんでも揃った。そんな商店街がめっきり少なくなったが、たばこ屋の先に道具屋があったりするはごくふつうの景で取り立てて言うほどのことではない。しかし、わざわざ言われることによってあらぬ事を想像してしまう。
鉈は子どもの頃に家にあった。薪割りに父が使っていた。鉈を一振りすると薪は気持ちいいほどの音をたてて、まっふたつに割れた。いつものように夫に頼まれてたばこを買いに来た。いままで気づかなかったが、たばこ屋のすぐ近くに鉈が売られている。今は夫のたばこを手に持っているが、この先、鉈を手にしなければならないことが私の人生に起こるかもしれない。サスペンスドラマである。『時実新子全句集』(1999年刊 大巧社)所収。