岸本尚毅 俳句月評:虚子への関心(毎日新聞 2012年3月25日 東京朝刊)より
(…)深見けん二編『高浜虚子句集・遠山』(ふらんす堂)は膨大な虚子の句から四百余句を抽出し、俳人虚子のエッセンスを伝える。昨年は若手執筆者(最年少は一九八七年生まれの生駒大祐)による『虚子に学ぶ俳句三六五日』(草思社)が出た。
虚子の「大寒の埃の如く人死ぬる」について深見は「大寒」の「兼題(句会で出題される俳句の題…岸本注)で想をめぐらしているうちに出来た句である」と言う。同じ句を『虚子に学ぶ…』は「『大寒』という題に合わせ、大喜利の答えのように詠まれた可能性が高い。そう思うと、このアンチヒューマニズムの句、同じ句会に出句の<大寒の見舞に行けば死んでをり>とともに、一同爆笑の、ジョークに近い句だったのかもしれません(上田信治)」と評する。言い方こそ違え、「埃の如く人死ぬる」の冷徹さの向こうに題詠の遊び心を見出(みいだ)した点は深見編『遠山』と『虚子に学ぶ…』の虚子理解は共通する。(…)