2009年11月7日土曜日

●コマキスト 中嶋憲武

コマキスト

中嶋憲武


おとなりのクミちゃんは、目のくりくりとして眉毛の濃い、ちょっと栗原小巻に似た子だった。二つ年下のクミちゃんは、ぼくに対していつも意地悪だった。クミちゃんのお兄さんと近所の子と三角ベースをしているときも、我が儘にキャアキャアわめくので、ぼくはあまりいい感情を持っていなかった。

栗原小巻は、その当時大好きな女優で、テレビドラマ「三人家族」など食い入るように観ていた。あおい輝彦の歌う主題歌を、今だって歌うことが出来る。

  あのときは何気なく会ったあの人が
  なぜか心に残る淡い恋ごころ
  この広い空の下ぼくのさがす
  幸せはあなただけあなただけ

三年ほどして、六年生になったぼくは通学班の班長で、クミちゃんが副班長だった。クミちゃんはとてもおしとやかになっていて、大人びていた。一年生の面倒もよくみた。

その頃、田宮二郎と栗原小巻の「知らない同志」というドラマを観ていた。田宮二郎がスーパー「プラネット」の店長で、栗原小巻との恋のお話だった。ある日、下校の時間、クミちゃんと一緒になった。北風の吹く畦道を口数少なく二人並んで帰った。ぼくはなんとなく田宮二郎になった気分だった。

作文の時間にぼくは栗原小巻のことを書いた。先生がそれを読みあげ、吉永小百合を好きな人のことをサユリストというように、コマキストという人もいるのですと言った。ぼくは、コマキストなのだなと思った。

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