2014年4月11日金曜日

●金曜日の川柳〔青田煙眉〕樋口由紀子



樋口由紀子






牛のマンドリンを聞く騎兵―秋の胃

青田煙眉 (あおた・えんび) 1923~

「牛のマンドリン」とは、初っ端からわからない。牛の奏でるマンドリン?あるいはそのような音色?それを馬に乗った兵隊が聞いている。「―秋の胃」? ふたたび謎である。

掲句のように、言葉を詰め込んで、描写に粘着力のある句は川柳ではめずらしい。「牛」も「マンドリン」も「聞く」も「騎兵」も「秋」も「胃」もすべて知っている言葉であるが、言葉の組み合わせが一般的ではなく、意味でからめとろうとしても、解きほぐすことが出来ない。けれども、同時に意味が濃厚に立ち上がる。自我の揺らぎや折り合いの付けられない思惟などがひっぱりあがってくる。言葉の意味の不思議さをあらためて感じる。

青田煙眉は『青田煙眉集』の序で「新しい実験を試みることと、川柳を通して現代の危機を描くこと」と書いている。川柳新書第38集『青田煙眉集』(昭和33年刊)所収。

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