2017年3月25日土曜日

●西原天気 るびふる

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 るびふる    西原天気

てのひらにけむりのごとく菫〔ヴィオレッテ〕
春ゆふべ地図を灯して俺の車〔カー〕
春雨や灯のほとはしる土瀝青〔アスファルト〕
春の夜の洋琴〔ピアノ〕のごとき庭只海〔にはたづみ〕
手術〔しりつ〕してもらひに紫雲英田〔げんげだ〕のまひる
なかぞらに練り物〔パテ〕支〔か〕ふ囀りの穹窿〔ドーム〕
雪花石膏〔アラバスター〕まだ見ぬ夜の数かぞふ
翻車魚〔まんばう〕のゆつくりよぎる恋愛〔ローマンス〕
莫大小〔メリヤス〕にくるまれて海おもふなり
くちびるがルビ振る花の夜の遊び

2 件のコメント:

竹岡一郎 さんのコメント...

一読驚いた。こういうやり方があったかという感じ。二句目の「カー」と八句目の「ローマンス」がめちゃくちゃカッコいい。俳句は日本語の詩とは確かに概ねその通りだが、カタカナが日本語でなければ、一体どこの言語だというのか。
エジプトの神でカーという存在がある。生命力の神格化らしいが、俺のカーといわれると、俺の生命力と言っているようで、しかもそれは車だといわれると、俺の姿まで浮かびあがるようだ。愛車が命で、走りが神で、夜の高速で孤独を満喫するような青春だ。このルビだけでここまで想像させるのは、英語をカタカナにしたルビの功績だ。
ローマンスは敢えて「ー」で伸ばしたことにより、まんばうにぴったり寄り添った感がある。これを「ロマンスよ」とかするとちっとも面白くない。わざわざ間延びさせた「ローマンス」という響きが、まんばうの泳ぎ方と重なるのだ。伴って、恋愛観もまた見えてくる。実に気長なまろやかな、ちょっとロココ風にあでやかだったりもするような恋愛である。「-」一字で(一字でさえない記号で)これだけ語らせる。
ルビは奥深い。

天気 さんのコメント...

お読みいただきありがとうございます。
名鑑賞。
この10句も浮かばれようというものです。