2017年3月13日月曜日

●月曜日の一句〔高野ムツオ〕相子智恵



相子智恵






原子炉へ陰剥出しに野襤褸菊  高野ムツオ

句集『片翅』(2016.10 邑書林)より

野襤褸菊は、道端などにみられる繁殖力の強い帰化植物。明治初期にヨーロッパから入ってきたという。いわゆる雑草だ。ギザギザとした葉を持ち、小さな黄色い花をたくさん咲かせ、野性の逞しさを見た目からも感じさせる。

原子炉周辺の誰も入れない土地に種を落とし、咲いたのだろうか。〈陰剥出しに〉は解釈にやや難しいところがあるが、野襤褸菊の全体にギザギザとした、小さいけれども荒々しい陰が、原子炉の方にあられもなく伸びている風景を想像した。この原子炉は、大震災の事故の原子炉であろう。大きく人工的な原子炉に対して、小さな野襤褸菊。野襤褸菊の方がはるかに小さいとはいえ、その逞しさは可憐さとは無縁である。

誰も本当のところは見えていない壊れた原子炉。人工的で制御されていたはずの原子炉の内部が、統制されていない野生化した帰化植物に近いもののように思われてくる。人の近寄れない場所で、統制されていない野生同士が、静かに剥出しにその陰を曝し合っている。

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