浅沼璞
目には青葉山ほとゝぎす初鰹 素堂
『江戸新道』(延宝六年・1678)
著名な発句だが、初出年や作風から推して談林のカテゴリーに入る秀吟。
周知のように、これは鎌倉の名物づくし。目には青葉の色、耳には山ほとゝぎすの声、口には初鰹の味、と初夏の風物を視覚・聴覚・味覚で愛でている。
〈耳には〉〈口には〉が省略されているのは談林のいわゆる「抜け」という省略法である。
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まずは上五&中七から。
〈青葉〉〈ほとゝぎす〉は初夏の風物詩として古くから和歌に詠まれた雅語(歌語)。
よく例示されるのは、〈ほとゝぎす聞く折にこそ夏山の青葉は花に劣らざりけれ〉(山家集)という西行の歌である。
いわば〈ほとゝぎす〉と〈青葉〉は本歌取りによるバランスのとれた伝統的な取合せとしていい。
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つぎに中七&下五。
〈ほとゝぎす〉とおなじ初夏の景物でありながら、商品経済における初物〈初鰹〉が俗語として配されている。
伝統的な雅語(竪題)に当世の俗語(横題)を配す、そんなアンバランスな滑稽味によって意表をついているわけである。
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これらを連句の「三句の渡り」の観点でとらえ直せば、雅語どうしの付合(二句一章)から、雅語・俗語の付合(二句一章)へと転じているということになる。
つまりは「三句の転じ」がなされているわけだ。
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後年(元禄四年・一六九一)、芭蕉も似たような発想で〈梅若菜まりこの宿のとろゝ汁〉と初春の景物を雅語/俗語で愛でているのは周知のとおりである。
〔素堂は談林期から芭蕉と親交があり、蕉風確立にも影響を与えたといわれている。〕
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