2012年6月29日金曜日

●金曜日の川柳〔川上三太郎〕 樋口由紀子


樋口由紀子








河童起ちあがると青い雫する


川上三太郎 (かわかみ・さんたろう) 1891~1968

ぞくっとする河童である。「河童満月」と題された連作の一句で、他に〈新年を蒼蒼として河童ゐる〉〈この河童よい河童で肱枕でごろり〉〈河童月へ肢より長い手で踊り〉〈満月に河童安心して流涕〉〈河童群月に斉唱だが―だがしづかである〉〈人間に似てくるを哭く老河童〉がある。どの句も三太郎の言葉で河童は河童らしく書かれている。

河童は誰もが知っている想像上の生き物である。生身の三太郎の発想では限界がある。だから河童を登場させたのだろう。その架空の河童の存在を描写したり、河童に語らせたりと自在であり、詩情あふれている。

『孤独地蔵』に収載されている「河童満月」は7句だが、72句あるという説もある。一つのテクストとして書いたのだろう。三太郎は川柳の一時代を大きく牽引した人で、伝統川柳と詩性川柳の二刀主義で知られている。『孤独地蔵』(1963年 川柳研究社)所収。

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