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2012年2月19日日曜日

〔今週号の表紙〕第252号 断面 四ッ谷龍

今週号の表紙〕
第252号 断面

四ッ谷龍


三鷹市の新川丸池公園で見た、えごの木の枝の断面。白い切り口が美しくて、デジカメで撮影しました。えごの木は、東京の水辺に多い樹木です。初夏に白い花をびっしり咲かせたときには、それはもう、すばらしい景色です。


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2010年11月6日土曜日

●おんつぼ36 テッサの歌、灰色のワルツ、アデルの恋の物語 四ッ谷龍


おんつぼ36
テッサの歌、灰色のワルツ、アデルの恋の物語

四ッ谷 龍


おんつ ぼ=音楽のツボ




秋の雨が降りつづきます。
中庭の木が濡れてひかりをこぼしています。
景色を見ている私の心も、しとしとと雫していくようです。
こんな日は、窓辺に灯をともしてレコードに針を落としてみましょう。「テッサの歌」を聴くために。静かな悲しい曲です。雨だれがガラス窓を伝うのにつれて、音符も上から下へとしなだれていきます。
もし私が死んでも 鳥たちが囀りを止めるのは一晩だけ。
もし私が死んだら 別の人が現れ あなたはいつか私を忘れるでしょう。
そして生のよろこびがあなたの視線を
また洗い清めることでしょう。
朝 あなたは見るでしょう
山が明るみ 私の墓に幾千もの花がひらくのを。
私はいなくなり 美しきものはよみがえる。
私のただ一人の恋人よ!
作曲者のモーリス・ジョベールはフランス人。戦前、おもに映画音楽の分野で活躍した人です。『舞踏会の手帖』の主題曲「灰色のワルツ」は、曲を後ろから前に向けて演奏し、レコードを逆回転させて再生するという、前衛的な手法を駆使したユニークなワルツとして有名です。
第二次世界大戦が起きるとジョベールは軍隊に志願しますが、1940年に戦場で銃弾を受けて死去してしまいます。40歳でした。
戦後になると、ジョベールの名は忘れられていきました。しかし彼の音楽を大事に思っている、ひとりの映画監督がいました。フランソワ・トリュフォーです。彼は、「映画に合わせて音楽を付けていく」のではなく、「ジョベールの音楽に合わせて映画を撮る」ことを思い立ちます。ジョベールのいくつかの音楽作品を選び、それに合うように画面を作っていこうとしたのでした。
こうして完成した映画が、ヴィクトル・ユゴーの娘アデルを主人公とした名作「アデルの恋の物語」です。
トリュフォーは、続く映画「緑色の部屋」でもジョベールの音楽を使用します。亡き妻のために礼拝堂を建立しようとする男についての映画です。完成した礼拝堂には、妻や大切な人たちの写真が飾られます。そこにはジョベールの肖像もあり、トリュフォー自身が演じる主人公は、作曲家について語ってみせるのです。

演奏者についてひとこと触れておきます。歌手のイレーネ・ヨアヒムは、名ヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒムの孫に当たります。(ヨーゼフはブラームスの若き日の親友でした)
ドビュッシーの歌曲を歌わせたら、彼女の右に出るものはいないでしょう。弱音が続く部分に熱い情熱を込めて表現することを得意とする、名歌手でした。

雨の日に似合う度 ★★★★★
いまどき共感されやすい度 ★★★



2010年6月3日木曜日

●おんつぼ32 辻井伸行の「展覧会の絵」 四ッ谷龍


おんつぼ32
辻井伸行の「展覧会の絵」

四ッ谷 龍


おんつ ぼ=音楽のツボ


2010年5月28日、NHKテレビで「ピアニスト辻井伸行~心の目で描く“展覧会の絵”~」という番組をやっていた。

辻井は一年前にアメリカの大きなコンクールで優勝し大きな話題になっていたから、彼の名を知る人は多いだろう。

辻井はこの4月、アメリカ各地で演奏会を開くツアーを行った。プログラムの柱として選んだ曲が、モデスト・ムソルグスキーの「展覧会の絵」であった。

番組は、彼がこの曲の演奏に取り組み始めてからツアーを終えるまでの一連のできごとを撮ったドキュメンタリーであった。

新たなレパートリーとして挑戦を始めたが、なかなか自分なりの曲のイメージをつかむことができず、辻井は悪戦苦闘する。アメリカのツアーが始まってからも、迷いは続く。彼がとくに悩んだのは、第9曲の「バーバ・ヤーガ」から第10曲の「キエフの大門」へと連続してつながっていく部分をうまく解釈できない点であった。だが最後の演奏を前にして、彼は問題の解決に到達する。

たいていの演奏家は、激しく音を叩きつける第9曲の勢いをそのまま引き継いで、第10曲を豪華壮麗に演じてみせる。ホロヴィッツの演奏もしかり、辻井が影響を受けたキーシンの演奏もそうである。

ところが、辻井の演奏は、第10曲に入ると少し音量を落として、弱音ぎみに開始したので、聴いていた私はびっくりした。こんな演奏を聴くのははじめてであった。

辻井は「キエフの大門」を、華麗な大建築としてではなく、心の中の小さな門として把握したようであった。

困難を乗り越えて、著名なピアノ賞を受賞した彼が、難曲中の難曲「展覧会の絵」を携えてアメリカに乗り込むと聞けば、誰しも「どんなに華やかな演奏をするのだろう」と期待するだろう。しかし辻井は予想を覆して、小さな、天国的な演奏を提示したように思われる。(番組では演奏の一部しか放映されなかったので、断定的なことは言えないが。)このような彼の思考を、私はとても詩的だと思う。

辻井の演奏は、「展覧会の絵」という曲について新しい発見を私にさせた。第1曲の「プロムナード」が非常に人間くさい、リアリズムを感じさせる曲であるのに、同じテーマが第10曲で再提示されるときは、天上的な夢幻性を帯びて表現される。ということは、「展覧会の絵」とは、人間が多くの詩的な経験を経て天上へと至るプロセスを描いた、一大絵巻なのではないだろうか。

辻井の「展覧会の絵」のCDは、この秋に発売予定だという。今からそれが待ち遠しい。

それまでは、リヒテルの演奏ビデオでもお楽しみいただきましょうか。

思考の深さにびっくり度 ★★★★★
今から待ち遠しい度 ★★★★★



2010年5月2日日曜日

●おんつぼ31 ダリダ 四ッ谷龍


おんつぼ31
ダリダ Dalida
「ひとりで生きないために」

四ッ谷 龍



おんつ ぼ=音楽のツボ



ダリダの歌声からは、女性の女らしさがジュワーッとにじみだしてくるように感じられる。iPodでダリダの曲を聴いていると、女らしさに包まれて自分の身も心もとろけるような気配がする。

ダリダ自身の人生は、悲しみに覆われたものだった。なにしろ、付き合った男性が3人も自殺してしまったのだ。カンツォーネ歌手のルイジ・テンコ、ラジオディレクターのリュシアン・モリス、そして自称伯爵のリシャール・シャンフレイ。

ダリダはエジプト生まれのイタリア人だが、フランスで成功し、出す曲出す曲、みんな大ヒットになった。生涯で55回、ベストヒットNo1を獲得したという。多くのファンに幸福と喜びを与えながら、最後はそんな生活にも疲れてしまい、彼女自身が睡眠薬で自殺した。大輪の花のような美貌と悲劇的な結末の対比はショッキングなものであった。

そのダリダの永遠の名作が、「ひとりで生きないために」である。

 ひとりで生きないために
 人は犬と暮らしたり
 薔薇とともに生きたり
 信仰とともに生活したりする
 ひとりで生きないために
 人は馬鹿騒ぎをしたり
 思い出とか、影とか、そのほか何でも
 大切にしたりする

最初は、このように、ごく普通に歌い出されるのだが、次の節に行くと「おや?」と思う。

 ひとりで生きないために
 女の子が女の子を愛したり
 男の子が男の子と
 結婚したりする
 ひとりで生きないために
 子どもをつくる人もいる
 ほかの子どもと同じくらい
 孤独な子どもを

ここに来て、歌詞のイロニーにわれわれは気づく。そして後半、さらに強烈な表現が待ち受けている。

 ひとりで生きないために
 友だちを作ったり
 つらい夜が来たら
 友だちを集めたりする
 お金や夢や
 豪邸のために生きたりする
 だが二人で入れる棺桶を
 作った者はいない
 ひとりで生きないために
 私はあなたと生きる
 あなたといると私は孤独だ
 私といるとあなたは孤独だ
 ひとりで生きないために
 私たちは生きる
 まるで 自分たちはひとりで生きていないという
 まぼろしを持とうとする人間たちのように

「ひとりで生きないために」というタイトルだが、結局この歌が言おうとしているのは、人はひとりで生きていくしかないものだという事実である。

孤独の癒され度 ★★★★
美貌に癒され度 ★★★★★




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