2013年8月19日月曜日

●月曜日の一句〔坂本茉莉〕相子智恵

 
相子智恵







どこまでも夏野でありぬ地雷原  坂本茉莉

句集『滑走路』(2013.8 ふらんす堂)より。

〈どこまでも夏野でありぬ〉までは、夏野としてはよくある感慨といえるが、〈地雷原〉の急展開で覆される。あとがきに〈タイに移り住んでからすでに二十六年〉とあり、タイの夏野なのだろう。

夏草が生い茂った広大な野原。青々とした生命力にこそ夏野の本意があろうが、その育ち盛りの夏草の生命力と対極にある「一瞬の死」の恐怖が、どこに埋まっているかわからない地雷によって呼び起こされ、それまでの長閑な気持ちが、下五まで読んで急に冷水を浴びたようになった。

かつて人間が埋めた人間を殺す鉄塊を隠し、夏草はただ静かに風に靡いている。静かに考えさせる句だ。

1 件のコメント:

坂本茉莉 さんのコメント...

相子智恵さま、

拙句をとりあげていただき、ありがとうございました。「静かに考えさせられる句」というフレーズに感激しました。そういう句を、今後も目指したいです。

坂本茉莉