樋口由紀子
元旦のかがみへ鼻などをうつす
尾藤三柳 (びとう・さんりゅう) 1929~
「元旦」はいつもと同じ朝なのに、いつもの同じ朝ではないような気がする。一年で最初の朝に最初に出会った自分の顔。去年もこの顔でやってきたし、今年もこの顔でやっていく。その中でもまんなかに鎮座している鼻。普段はそんなに気にならないが、よく見るとその存在に確かなものがあり、私自身を象徴しているようでもある。「今年もどうぞよろしく」と鼻に触れて、もう一人の私に差しだすように、かがみにうつす。なぜ、そんなことをしてみたのか、それは元旦だからである。
「鼻など」は鼻の他にもあるという含みともとれるが、単に鼻などとやわらげて言っているように読んだ。「元旦」の捉え方がユニークである。
尾藤三柳は『川柳総合事典』(昭和59年刊)の編者であり、川柳文芸研究の第一者。サラリーマン川柳の選者も務めた。
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