2014年1月27日月曜日

●月曜日の一句〔榮猿丸〕相子智恵

 
相子智恵







雑居ビル窓の一つに干布団  榮 猿丸

句集『点滅』(2013.12 ふらんす堂)より。

〈雑居ビル〉というのが都会の、しかも場末のチープな感じをよく伝えている。雑居ビルなど俳句にはまず詠まれることのない建物だが、実際にはよく見る風景だ。小さな飲み屋や怪しい金融業の事務所、風俗店などがテナントとして入っているのだろう。そのビルの窓の一つに布団が干してある。きっと日当たりも悪く、布団を干しても乾かないような窓だ。

布団は生活のもっとも身近な道具であるが、干されているのが雑居ビルの窓だと思うと、隠微で貧乏臭く、哀愁が漂ってくる。〈しつかりと飯を食はせて陽にあてしふとんにくるみて寝かす仕合せ 河野裕子〉の健康的な家族の布団とは真逆の、家族と縁を切った大人が寝ている湿っぽい布団が思われてくるのだ。一人か、あるいは男女二人が一緒に寝ている一枚の布団。

掲句はまず雑居ビルという全体を見せてから、窓の布団という一点にぴしりと焦点を当ててゆく、構造のしっかりとした写生句である。その明確な構成で、いままで詠まれてこなかった現代的でチープな材料を詠むと、こんなにもクリアに、現代の私たちが住んでいるリアルな世界が立ち上がるのだ。

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