樋口由紀子
手術記念日鰯の味が舌にある
西山金悦 (にしやま・きんえつ) 1930~
手術して一年が経ったのだろう。一年前のこの日、それなりの覚悟をもって手術に臨んだ。おかげさまで手術は成功し、鰯の、その青魚の味がしっかりわかるようになるまで回復した。味がわかるという単純な事実は健康なときはあたりまえだったが、病気をしてはじめて、食物の味がわかることはもったいないくらい尊いことなのだとわかった。感慨の「手術記念日」、具体的な「鰯の味」の言葉が功を奏している。
六十歳に大きな手術を受けたときの作品であるらしい。生きていることのありがたさ、健康でいるよろこびが直に伝わってくる。私のまわりにも体調を崩している人がいる。年齢を重ねるとある程度病も受け入れざるを得なくなる。だから余計に健康のありがたみもわかる。この一年なによりも健康でありますように。『天道虫』(1993年刊)所収。
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