樋口由紀子
リア王もオセロもマクベスも 馬鹿だ
高瀬霜石(たかせ・そうせき)1949~
リア王もオセロもマクベスもシェークスピアの四大悲劇。悲惨な結末を迎えるのだから、確かに馬鹿だと言える。そうならないようになんとかすればよかった。が、何故「馬鹿だ」なんて身も蓋もない言い方をするのかと思った。
「馬鹿」という言葉は一見、単純で狭い一つの意味をしか持ち合わせてないと思ってしまいがちだが、存外、そうではなくて、広範囲にありとあらゆる感情が入り乱れている言葉である。「馬鹿だ」とあらためて言うことに意味があり、それによっての全体を照射する。愛情表現であり、アプローチの仕方なのだろう。
五四五三、計十七音で、川柳であると辛うじて保証している。この十七音がつぶやきで終わらない、なにがしかの意味をもたらす装置である。人名なので仕方がないと言えるのだが、強引な句跨りにも独自の捻じれがあり、それによってアイロニーとペーソスを生み出しているように感じる。『川柳作家全集 高瀬霜石』(2010年刊)所収。
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