樋口由紀子
父の部屋に父の平均台がある
海地大破 (うみじ・たいは) 1936~2017
昨年は私が影響を受けた川柳人がつぎつぎと亡くなった。海地大破もその一人である。ハスキーな声と含羞のある笑顔が思い出される。
一般家庭には平均台はない。まして、父専用の平均台が部屋に置いてあることはない。しかし、掲句を読んで、父が自分の部屋で黙々と平均台を歩いている姿は決して意外でもなく、まして怪ではなく想像できた。
他人には決して見せない父の姿が平均台の上にある。バランスを取りながら、無心に平均台をゆく。落ちても、ふたたび上がり、また落ちる。可笑しくもあり、せつなく、哀しい。父というものを象徴している。作者はそのような父であったのだろう。〈満月の猫はひらりとあの世まで〉〈喪の家のうろこを捨てるドラム罐〉
0 件のコメント:
コメントを投稿