2018年2月22日木曜日

●木曜日の談林〔松尾芭蕉〕黒岩徳将



黒岩徳将







門松やおもへば一夜三十年 芭蕉

わかりやすい句である。門松を見て、年が明けたことを感じる。「一夜のうちに(あっというまに)三十年が過ぎたかのように感じることだ」ぐらいだろうか。

「一夜三十年」は元ネタがある。謡曲の「大江山」に「一夜に三十余丈の楠になつて奇瑞を見せし処に」という一節だ。(「大江山」は、源頼光が酒呑童子という鬼を退治するために山伏に変装して四天王などの家来と大江山に分け入る物語である)「一夜」「三十」を借りて、「年」はオリジナル。この年(延宝5年)、芭蕉は34歳で、この俳諧宗匠として立机した。自分の人生をしみじみと振り返っている。

インターネットでこの句を検索すると、個人のブログで引用しているものがいくつか見られる。社会人には染みるものがあるのだろう。ただ、そのときに感動しているのは「おもへば一夜三十年」であり、季語「門松」の効果に対して言及しているものは見られなかった。(俳句愛好家でないなら当たり前かもしれないが)。この句は、人間の人生に哀愁を持たせる為の装置としては機能しているのだろうが、時空を越えた俳句的価値は、それほどないのかもしれない。私は来年の正月に、門松を見てこの句を思い出すだろうか……。

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