〔週末俳句〕
10月の入り江
木岡さい
臀部をすくい二の腕を引っ張り岩に押し付けた。切りたった石灰石の崖を見上げる入り江で泳いでいた時だ。盛り上がる波の緩やかさに油断していた。身体は一瞬、波になされるがままになった。
子どもがいない10月の海岸。大人たちは、持参のパラソルの下で寛いだり、潜ったりしている。ガツガツとした岩場を行く、こんがりと日焼けした姿はどれも、映画 『太陽がいっぱい』のアラン・ドロンに見えるのが不思議だ。夏の名残りがまだ腰を据える空気の層の奥に、マルセイユの高層ビルが小さくかすむ。
陸に上がると、海水と混じりあった血が左肘に広がった。荒い岩肌で切ったらしい。近くの男性が血に気づき、ティッシュを差し出した。白い野球帽にサングラス。ひとりで時々この海岸へ来るという。「ミストラルが吹かない日も、このあたりの波の流れは強いからね」と、サングラスをずらし微笑んだ。
男性と30分ほど話し、読みかけの本を開いた。変哲もない日。みんな裸ということ以外は。
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