浅沼璞
叶はぬ恋をいのる清水 嵐雪(打越)
山城の吉弥むすびに松もこそ 其角(前句)
菱川やうの吾妻俤 嵐雪(付句)
『みなしぐり』(天和三年・1683)
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『みなしぐり』は過渡的な選集だけれど、この恋の付合は談林の遺風(異風?)をついでいる。
かなわぬ恋を清水寺に祈り、帯を吉弥結びにして待つ(松)も哀れ。見れば浮世絵の祖・菱川師宣が描くような遊女・吾妻(あづま)太夫にも似た俤(面影)……。
「吉弥(きちや)結び」とは、京都(山城)の女形・上村吉弥の帯の仕方。結びの両端をだらりとさげて粋に着こなす。若い一般女性(地女)の間で大いに流行し、師宣の代表作「見返り美人図」でも描かれたほど。周知のとおり浮世絵は現代のグラビアのようなものだった。
なおこの付合、いっけん三句絡み(観音開き)のようだが、人情自(打越)から他(付句)への転じはちゃんとなされている。さすが嵐雪。
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