樋口由紀子
いつのまに死後は帽子の箱の中
八上桐子 (やがみ・きりこ) 1961~
以前から帽子の箱にはへんなかたちのものが多いと思っていた。帽子の型が崩れなりように、帽子に合わせて作られているのだからしかたがないが、積んで仕舞うのも、そこに置いておくだけでも、存在感があって、独立独歩である。
死後はそんな帽子の箱に中に居たのだ。それもいつのまにか死んでしまって、知らないままに帽子の箱の中にいる。それは人形とも読めるけれど、人形なら生死は不問である。昆虫とかの生き物だとも読めるけれど、どうも自分自身のような気がする。
「あれっ、私、いつのまに死んだのだろう」「それになぜ帽子の箱に中にいるんだろう」「よりにもよって、他の箱と協調しない、バランスの取れない帽子の箱ってなによ」。でもそれが私らしいと自嘲している。〈村中の雨の空家を聴かないか〉〈数はいま詩となるカシオ計算機〉 「川柳ねじまき#5」(2019年刊)収録。
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