樋口由紀子
形而上の象はときどき水を飲む
大西泰世 (おおにし・やすよ) 1949~
生きている象はもちろん水を飲む。しかし、形而上の象は水を飲むという行為はしない。「形而上」とは抽象的で観念的なものであるから、形をもって存在することはない、しかし、作者は「水を飲む」と言い切る。常識的にはない世界を自分の考えをもって、言葉によって創り出す。日常に対する作者自らの感覚、反応なのだろう。
その姿はどのようなものなのだろうか。その姿が見える視力の良さを感じる。人にうまく説明できないモノを表出している。ひょっとしたら、私の中にもそのような象が存在しているのではないかと思ったりする。いままでと違った目で物事を感じたくなる。日常の感触が変質する。〈さようならが魚のかたちでうずくまる〉〈次の世へ転がしてゆく青林檎〉〈号泣の男を曳いて此岸まで〉 『世紀末の小町』(1989年刊 砂子屋書房)所収。
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