浅沼璞
肝心の軍の指南に利をせめて 七句目(打越)子どもに懲らす窓の雪の夜 八句目(前句)
化物の声聞け梅を誰折ると 裏一句目(付句)
『独吟百韻自註絵巻』(元禄五・1692年頃)
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まず前句が付いたことにより、「指南」の対象が我が子に限定され、武士の眼差しに親の目線が重なります。
なので、この段階での「懲らす」はスパルタ教育をする親の目線からのもので、「艱難辛苦を与える」といったニュアンスです。
しかし付句が付いたことによって「懲らす」はいたずらっ子に「罰を与える」といったニュアンスに転じられます。
つまり、貴重な雪中梅を折ってしまった坊ちゃまを、化物の声色で懲らしめる下女の眼差しへと変貌しているわけです。
自註によると下女にそうさせているのは母親という設定ですが、付句の眼差しそのものは下女のものといっていいでしょう。
(げんに絵巻を繙くと、ハロウィンよろしく鬼に扮した下女の眼差しは真っすぐ坊ちゃまに向けられています。こわ)
また季語に注目すると、冬(雪)から春(梅)への転じ、つまり季移りも難なくなされています。
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ところで、いつも本稿を読みやすく編集してくれている若殿(=福田若之氏)は、編者というだけでなく、鋭い第一読者でもあって、今回も――
「冬から春への季移りに鬼の扮装となると、追儺の行事のことなども思われますね。もちろん、句の言葉としてはたんに〈化物の声〉なので、西鶴よりもむしろ絵師の趣向なのでしょうけれども」
との仰せ。
「呵々。さすが若殿や。筆者と編者、入れ変えた方がええんちゃうかい」
いや、やはり政治屋をマネて自分の座にはしがみつきます。
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