相子智恵
冬来たるごとりと嵌めて乾電池 奥坂まや
冬来たるごとりと嵌めて乾電池 奥坂まや
句集『うつろふ』(2021.7 ふらんす堂)所載
電化製品に電池を入れている。切れた電池を入れ替えているのかもしれない。〈ごとりと嵌めて〉で、この乾電池は単1形の、大きくて重い乾電池だと想像されてくる。「ごとり」のオノマトペが見事だ。そういえば最近では電池の性能がよくなったのか、単3形や単4形の乾電池を使用する電化製品が多くて、単1形の出番は少ない。私がパッと思いつくのは懐中電灯やガスレンジくらいである。
これ以上ないというほどの些末な景なのに、乾電池の重さと冷たさの中に〈冬来たる〉季節感が確かに感じられてくるのだから、俳句というのは面白いものだ。
〈ごとりと嵌めて乾電池〉にはオノマトペと濁音の効果で、腹にくる重さがあって、冬の寒さへ向かう厳しさとよく響きあっている。
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