西原天気
※相子智恵さんオヤスミにつき代打。
※相子智恵さんオヤスミにつき代打。
缶切りが一周ぼくの蓋が開く 佐山哲郎
缶の側面やら底に缶切りを使うことは断じてないので、これはもう、脳が見えてしまうしかない。伝説か伝承か虚構か嘘っぱちか、中国のお金持ちは美食ゲテモノ喰いのはてに、猿の頭蓋をぱかっと割って脳を食したという。ああ、おそろしいおそろしいと怯えていたら、映画『ハンニバル』(2001年/リドリー・スコット)がわざわざ映像化してくれた。ひどいシーンだったなあと回想しているうち、むかし、牛の脳のカツレツを食したことを思い出してしまい、感染症うんぬんよりも、その濃厚すぎる風味と、脳!という事物の衝撃力のせいで、いままさに胃のあたりがムカムカしだした。
とまれ、俳句というジャンルは、知性の蓋がだらしなく開きっぱなしになったようなところがあるので、掲句、絵としてはえらくエグくても、愛嬌がまぶされてどこか呑気で、《ぼくの蓋》が開いたと言われても、それはエマージェンシーなどではなく、「別に、中、見たくないし、すぐ蓋したほうがいいよ」と、あえてのんびりとした口調で、総論、突き放してみたくなる。
掲句は佐山哲郎句集『東京ぱれおろがす』(2003年/西田書店)より。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿