相子智恵
定型の冬(樹の中に樹は眠り…) 小島 明
定型の冬(樹の中に樹は眠り…) 小島 明
句集『天使』(2021.11 ふらんす堂)所載
〈定型の冬〉の「定型」とは、私たち俳人は、定型詩のことをどうしても思うものだ。〈(樹の中に樹は眠り…)〉の丸括弧で括られた部分は、裸木とは書かれていないものの、〈定型の冬〉によって、葉をすべて落として眠る裸木が呼び出されてくる。
〈樹の中に樹は眠り…〉は複数の木立の中の一樹が眠っているのか、一樹の内なる樹が眠っているのか、捉え方は二つに分かれるだろうが、私はパッと後者で読んだ。〈…〉の効果もあって、樹の中に樹は眠り…そして眠り…眠り…眠り…と入れ子のように、樹の内なる樹がどんどん眠っていくように思われてくるのである。
樹は丸括弧からはみ出ることはなく、「定型の冬」の中にちんまりと収まっていて、丸括弧の中は、みっちりと内なる樹が〈…〉で充填され続けながらも、スーッと遥かに開かれてゆく。
充ちながら、開かれてゆく。定型詩というものの本質を言葉が結ばせる風景だけで描いた、静かで不思議な手触りのある一句である。
本書は第1句集で、遺句集とのことだ。
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