相子智恵
月の陣母恋ふことは許さるる 平松小いとゞ[1916-1944]
月の陣母恋ふことは許さるる 平松小いとゞ[1916-1944]
谷口智行編『平松小いとゞ全集』(2020.12 邑書林)所収
掲句は昭和19年の作で、同時期の作に
菫咲きあたゝかけれど敵地なる
朧夜やふるさと恋し便り欲し
があり、掲句も春の月なのだろう。「ホトトギス」の巻頭作家にもなった和歌山県新宮市出身の俳人、平松小いとゞは、昭和19年2月15日頃、門司港より北支方面軍の少尉として出征。同年6月5日、中国河南省霊宝付近にて尖兵長として戦闘中、散弾を顔面に受け、6月7日に戦死した。27歳だった。
〈母恋ふことは許さ〉れても、母のもとに帰ることは許されない。〈ふるさと恋し便り欲し〉とは書けても、帰りたいとは書けないのだ。
雁帰り臣がいのちは明日知らず
は出征の船上での作であろう。雁は帰ることができても、臣民の命は明日どうなるかも知れない。どんなにか帰りたかっただろう。
本書は谷口智行氏による労作である。
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