2022年3月21日月曜日

●月曜日の一句〔小沢信男〕西原天気



西原天気

※相子智恵さんオヤスミにつき代打。




しゃぼん玉吹きくたびれてなみだぐむ  小沢信男[1927-2021]

なんらかの感情に由来する涙ではなさそうだ。口唇から口蓋へ鼻孔へ眼球へと、それらはつながっている。涙が出るまで吹き続けてしまった、その事情はわからないが、なんだか情けない。その情けなさが、いい。軽くて、いい。

春の感じも漂う。「しゃぼん玉は春の季語」と決められているから、というばかりではない。この句に漂う情けなさは、いかにも春らしい。

掲句は小沢信男全句集『んの字』(2000年/本とコンピュータ編集室:編集)より。

小沢信男は『裸の大将一代記 山下清の見た夢』(2000年/筑摩書房)などで知られる作家。いわゆる「文人俳句」と位置づける向きもあろう。実際、《五七五七七ほどの日永かな》《学成らずもんじゃ焼いてる梅雨の路地》《んの字に膝抱く秋のおんなかな》など、余裕や粋に溢れた句群は、俳句プロパーからは生まれにくいかもしれない。

なお、私の愛読書は『犯罪紳士録』(1980年/筑摩書房)と『東京骨灰紀行』(2009年/筑摩書房)。前者はピカレスク好きにオススメ。後者は東京での吟行・散歩のお供に最適。

0 件のコメント: