樋口由紀子
靴屋きてわが体内に棲むという
石部明 (いしべ・あきら) 1939~2012
まるで他人事のようである。自分にだけ聞こえる、メルヘン的な語り口だが、靴屋が体内に棲むというのは尋常ではない。しかし、戸惑っているふうでも不安に思っているのでもなさそうである。むしろ歓迎しているようでもある。自分がどう変化するのかワクワクしている。そうなることで本来の自分が現れ、自分が見えてくる。
自分自身の壊れに対する鋭敏な感覚からきているのだろうか。歪んだ感覚をありきたりの言い回しに委ねずに物語っている。靴屋が棲んだ体内はどうなっていくのか。強烈な存在感を「靴屋」は放っている。自分の中に抱えている得体のしれないものを意味不明の不可解な現象に差し戻している。『遊魔系』所収。
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