2022年5月13日金曜日

●金曜日の川柳〔暮田真名〕樋口由紀子



樋口由紀子






寿司なんだ君には琴に聴こえても

暮田真名 (くれだ・まな) 1997~

「寿司」と「琴」をまったくの別物で、見紛うことはない。まして、寿司は味わうものであって、聴くものではない。そんなことはみんな知っている。しかし、誰も思わないことをヒョイとリズムに乗せて運ぶ。切れはないが意味は切れているのか、意味を書いて無意味に仕立てているのか。ここには起承転結も因果関係もない。

〈寿司ひとつ握らずなにが銅鐸だ〉〈寿司を縫う人は帰ってくれないか〉〈良い寿司は関節がよく曲がるんだ〉〈「寿司だからさみしくないよ」「本当に?」〉〈もし寿司と虹の彼方へ行けたなら〉。見たことも聞いたこともない寿司たちである。寿司を十七字のアレンジと演出でまったく別のふうに見せる。全く違う感性で、全く違う切り口で、言葉が躊躇なく動き、調子にのる。ルール違反しなければ出てこない世界である。『ふりょの星』(2022年刊 左右社)所収。

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