樋口由紀子
こおろぎを支配しすべて裏返す
平岡直子 (ひらおか・なおこ) 1984~
小学生の頃に昆虫採集という夏休みの宿題があった。昆虫を採集し、注射し、ピンで刺し、標本にする。そんなことが許さるのは、ここは人間の世であり、昆虫の世ではないからである。
こおろぎだけを裏返すのだろうか。それともすべてのものを裏返すのだろうか。「支配し」と「裏返す」の容赦ない論じ方が不穏だ。悪意が鮮やかで、言葉の置き方にためらいがない。世界の描き方は直球であり、かつ危険球で、曖昧に終わらせるつもりはない。回収されない思いが読み手に残こされる。一句全体が比喩なのだろうか。表と裏は一瞬にして変わる。立場はいつ逆転するかわからない。『Ladies and』(2022年・左右社)所収。
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