樋口由紀子
人間じゃないと告白する檸檬
富永顕二(とみなが・けんじ)
檸檬はサワー・サラダ・揚げ物などの添え物でついてくる。皮を残して、果肉をぎゅっと思い切り絞られ、捨てられる。まるで人間のようではないかと。檸檬にそんな告白をされたら、人間の面目丸つぶれである。檸檬に自己投影しているのだろうか。そう読むのが順当だろう。
檸檬が普通に考えて話す視点で書いている。「人間」と「檸檬」は同じ範疇に属している。人間の外部からこの世の現実を書く。立場を変えると世界の見方もくるりと変わり、なにもかもが回りはじめる。言葉を異化しているのでもなく、奇想というほどでもない。そんな世界が実際にあるかのように見せるのも俳諧味だろう。「川柳ねじまき」(11号 2025年)収録。
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