2025年11月7日金曜日

●金曜日の川柳〔大野美恵〕西原天気



西原天気

※樋口由紀子さんオヤスミにつき代打。



ひとりだよ ふ どんがばちょをまっている  大野美恵

「どんがばちょ」をご存じない方も多いと思いますが、わたくしは「ひょっこりひょうたん島」世代なので、彼、ドン・ガバチョが、あの、国境や国籍といった土にまつわるものから切り離され/解放され、海をさまよう浮島の大統領であることをよく知っている。いちおう確認のために調べてみると(例によって、安易にウィキペディア)、出身は「デッパソッパヨーロッパの牧之原市ドンドン市ふくら小路1番地」とある(原作の井上ひさし、やりたい放題に遊んでいらっしゃる)。牧之原感は希薄で、欧州的な胡散臭さはふんだん。帽子と髭が記憶に残る。蝶ネクタイは、声を務めた藤村有弘とも重なる。

と、そのことしか言わないのは、《ひとりだよ》も《まっている》も、まるっきり事情がわからにないから。そう言うんだから、そうなんだろうなと。事情のわからなさは、たいていの場合、気持ちがよくて、「お願いだから、そんな事情がわかることばかり言わないで、書かないで」というのが、川柳(ときに俳句)へのお願い。

で、最後になったが(最後になっちゃいけない)、「 ふ 」だ。このわけのわからなさは、別種であります。全角1字アキに挟まれ、浮かんでいるような(「ふ」は「浮」?)、漂うような。

答えは、ないのかもしれないし、あるのかもしれない(あっても、聞きたいような聞きたくないような)。

「ふ」は不思議の「ふ」とでも言わんばかりに(否、ぜんぜんそうでもなく)、わたくしのなかの不思議として、ゆらゆら揺れ続けている。

ドン・ガバチョ氏なら、なんとかしてくれるのか。そういえば、彼には、大人物と詐欺師が合わさったような魅力があったなあ、と、なつかしい気持ちになっている。

掲句は『川柳木馬』第184号(2025年10月)より。

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