〔俳誌拝読〕
雷魚 80号 2009年10月
小宅容義発行。隔月刊。本文50頁。「雷魚の会」創設は1987年(後記=小宅容義による)。
巻頭近くに亀田虎童子『色鳥』(2008年)特集。岡本高明(「あるがまま」)、寺澤一雄(「平明とは」)両氏の句集評をはじめ、同人諸氏による一句観賞が並ぶ。
「雷魚」は芸達者が集まって、二十年前に創刊された同人誌であるが、芸達者のなかでも抜きん出ていた虎童子が八十歳を過ぎ、病を得ながら求めて止まない俳句の世界が平明さというのは、共感できるところである。芸を消す芸を使いながら到達する俳句の世界から今後も眼が離せない。(寺澤一雄・前掲)広辞苑より重たき春の猫 虎童子(以下同)
鯛焼やひと足ごとに日の暮れし
叩かねば落ちる紙風船たたく
蟻はみな同じ大きさ列をなす
筆書きの賀状の籤の当りたる
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同人諸氏10句から1句ずつを引く。
枇杷の実を降りつつむ雨つたふ雨 中村与謝男
水槽に稚魚つぎつぎと業平忌 鍋谷ひさの
茄子の馬夕日しつらへ駈け出しぬ 八田木枯
ぼうたんの金の蕊より金の虻 平佐悦子
真昼間の首塚という涼しさよ 細根 栞
白雨きたりて縞馬を裏返す 増田陽一
走り茶と赤福餅のうねりかな 松下道臣
鉄塔の螺子しめなおし秋の暮 三橋孝子
夜の秋艇庫の口の開いてゐる 宮路久子
花菖蒲余白に水の滲みいる 森 章
秋風のうわすべりして猿ヶ島 遊佐光子
噴水に集まっている日暮かな 好井由江
桃色とならねば桃と思はれず 阿部寒林
噴水は水をむすびてあきらめず 上田多津子
家一つかくすばかりに吊し柿 衣斐ちづ子
青山河じぶんの肘の見えにくく 太田うさぎ
雲の峰いやしき口もおとろへし 岡本高明
走り出す抜け羽だまりの羽抜鶏 小宅容義
たんぽぽのととのふ絮のとぶ日なり 笠川輝子
ボンネットバスの終点ほととぎす 勝又民樹
遠雷や土偶の口のぽかんぽかん 神山 宏
脳天といふに気づける溽暑かな 亀田虎童子
仏壇にきのふの蠅とけふの蠅 加茂達彌
ひまわりの直立おじいさんがいる 北上正枝
傘置けばたちまり山の蟻が来る 栗田希代子
巴里祭や古い雑誌に紐かけて 小島良子
住み馴れの富士山帯草を引く 小林幹彦
人と影足でつながり夏深む 櫻井ゆか
体ごといつか出てゆく木下闇 櫻木理子
くらがりの一樹にのぼる盆太鼓 鈴木夏子
寺の木のとんとん乾く夏うぐいす 関戸美智子
皆既日食袋の中の蟹うごく 蘓原三代
鰯てふ文字の何ぞ骨多き 竹内弘子
東京は上野で終りひきがえる 寺澤一雄
地震多き国にて花鳥諷詠す 遠山陽子
(さいばら天気)
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