2010年1月5日火曜日

●コモエスタ三鬼01 20世紀よりひと足早く


コモエスタ三鬼
第1回
20世紀よりひと足早く

さいばら天気


咳きて神父女人のごと優し  西東三鬼    咳きて=しはぶきて

第一句集『旗』(昭和15年=1940年・三省堂)冒頭に配された「アヴェ・マリア」5句(1935年作)。その4句目。

私が十代の頃に知っていた神父はベルギーの人で「女人のごと優し」い人だった。咳ではないけれど洟を噛むとき、ポケットから白いハンカチを出し、噛んだ。しわくちゃのハンカチをもっとしわくちゃにしてまるめ、またポケットにしまう。日本人には、ハンカチをこのように使う習慣はない(本来そう使うものであろうけれど)。寛容というものをまだ学習していない子どもの目には、神父の行為がなんだか汚く映った。そうしたちょっとした違和感は、洟を噛んで赤くなった鼻、とても高い鼻と併せ、「とても外国」なのだった。



さて、西東三鬼。生年は明治33年(1900年)。19世紀最後の年。

同じ生年の人を拾ってみると、日本では、石坂洋次郎、稲垣足穂、大宅壮一、杉原千畝、永田耕衣、中村汀女、平野威馬雄、二村定一、三好達治。海外では、ナタリー・サロート、サン=テグジュペリ、イヴ・タンギー、ルイス・ブニュエル、クルト・ワイル。

こう並べても脈絡は見出せないが、時が経てば見出せるかもしれない。

なぜ、生年にとりあえずこだわっているのかといえば、1920年代を、20歳代で過ごした。そのことが気にかかったから。いまは何かを言うことはできないけれど、そのうち何かがわかるかもしれない。

ついでに1歳年長。すなわち1899年生まれは、阿波野青畝、石川淳、右城暮石、川口松太郎、田河水泡、田谷力三、橋本多佳子、丸山薫、宮本百合子、山手樹一郎。海外では、フレッド・アステア、デューク・エリントン、ジェームズ・キャグニー、エーリッヒ・ケストナー、グロリア・スワンソン、ウラジーミル・ナボコフ、アルフレッド・ヒッチコック、フランシス・プーランク、アーネスト・ヘミングウェイ、ハンフリー・ボガート、アンリ・ミショー。

もうひとつついでに1歳年少、1901年生まれ。秋元不死男、小栗虫太郎、海音寺潮五郎、川崎長太郎、神吉晴夫、木村伊兵衛、高橋新吉、円谷英二、中村草田男、羽仁五郎、阪東妻三郎、村野四郎、村山知義、柳家金語楼、柳家三亀松、山口誓子。海外では、ルイ・アームストロング、ゲイリー・クーパー、クラーク・ゲーブル、エド・サリヴァン、アルベルト・ジャコメッティ、マレーネ・ディートリッヒ、ウォルト・ディズニー、ヤッシャ・ハイフェッツ、アンドレ・マルロー、ジャック・ラカン、アンリ・ルフェーヴル。

こうした人たちはみな、みずからの20歳代と世界の1920年代をほぼ重ね合わせて暮らしたのですね。



というわけで、「コモエスタ三鬼」と題して、西東三鬼のことを何回か書きます。長い連載になりそうですが、まとまった論考にはなりません。一本一本さえ、まとまらない断片。覚え書き。そのときの気分でスタイルも変わっていきそうです。そんなこんなですが、よろしけば、お付き合いください。当面は毎週火曜日掲載を基本にいたします。

いまのところの主な参考文献は次のとおり。

『西東三鬼全句集』沖積舎・2001年
『西東三鬼集』朝日文庫(現代俳句の世界9)1984年
西東三鬼『神戸・続神戸・俳愚伝』出帆社・1975年
『俳句現代』2001年1月号(角川春樹事務所) 読本 西東三鬼

その他の参照・引用を含め適宜示すこととします。

(つづく)

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