樋口由紀子
蜘蛛の巣をかぶって猫はあらわれた
山田ゆみ葉 (やまだ・ゆみは) 1951~
猫が蜘蛛の巣をかぶって出てきただけのことが書かれている。軒下からか天井からか、そんな猫が出てきそうであるが、奇妙な光景である。異様な、それでいてなにやら滑稽な雰囲気が漂う。
「かぶって」だから、猫の意志で蜘蛛の巣をかぶって出てきたように作者には見えて、その堂々ぶりに魅せられたのだろうか。あるいは蜘蛛の巣ごときが頭にあろうとそんなことはいっさい動じない、威風堂々とした猫に惹かれたのだろうか。が、蜘蛛の巣が頭についていることに気づかない無邪気な猫でもある。蜘蛛の巣を取り払わないのは意志なのか、ただ気づかないだけなのか。猫に対する思い入れの差も影響して、その姿を畏怖するか、可愛いと思うのか、全く異なった気持ちを引き出す。猫を比喩として使ったわけではなさそうだが、人間にも当てはまると思った。さて、この猫はどうなのだろうか。「ふらすこてん」(第53号 2017年刊)収録。
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