相子智恵
指が指に逢ふ新涼のバケツリレー 黒岩徳将
アンソロジー『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』佐藤文香編(左右社 2017.09)所収
「新涼」や「指」を感じられる余裕があるのだから、このバケツリレーはもちろん、実際の火災現場のそれではない。新涼の季節には9月1日の防災の日が重なるので、防災訓練のバケツリレーが自然と思い出されてくる。
およそ詩にならなそうな〈バケツリレー〉という言葉がこんなに詩的になるとは……と、美しさと可笑しさで印象に残った。
〈指が指に逢ふ〉の淡い恋情からは、学校の防災訓練が想起される。バケツの水をこぼさないように、しかも素早く受け取って手渡さなければならない中で、恋心を抱いている相手と隣同士になった。バケツを渡すたびに指が触れ合う……そんな場面だろう。〈バケツリレー〉という語のまったく美しくないリアルが情けなくて、〈指に逢う〉が眩しくて、情けなさと眩しさが同居する、いい青春俳句だなあと思う。
バケツの中には澄み渡った秋の水が湛えられていて、それも清々しい。
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