相子智恵
点滴や梅雨満月の高さより 石 寒太
句集『風韻』(紅書房 2017.11)所収
夜、病院のベッドに仰臥して点滴を受けている。入院しているのだ。吊るしてある薬液のパックの後ろには、窓から満月が見えている。
一滴ずつ落ちる薬液をぼんやり眺めていると、薬液のパックの高さと、梅雨満月が同じ高さであることに気がついた。もちろんその距離は全く違うのだけれど、この病院のベッドの上では、二つは同じ場所にあるのだ。
梅雨の月だから、きっと輪郭は滲んでいるのだろう。滴るような満月を見ているうちに、だんだんと梅雨の満月から降り注ぐ滴が、体内に入っていくような気持ちになってくる。
淡々と写生しながら、読者を静かで幻想的な世界へと連れていってくれる。リアルで、しかも美しい景だ。そしてその奥に、境涯が透けている。
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