樋口由紀子
この辺で妥協する気の角砂糖
永田帆船 (ながた・はんせん) 1914~1996
いや、妥協する気なのは角砂糖ではなく作者だろう。夫婦喧嘩でもしたのだろうか。気まずい空気が流れている。どうにかしなくては思いながらも、こちらからあやまるのも癪にさわる。が、この硬直状態が続いているのもかなりしんどい。意地を張り合うのもだんだんと疲れる年齢になってきた。一人で飲む珈琲は美味しくない。なによりもつまらない。角砂糖のように甘く、大人になって、こちらから折れてやろうか。「珈琲が入ったよ。お茶にしよう」と。
実生活に基づいて、あれこれ勝手に想像してみた。温かいものを入れるとまっしろな角砂糖の尖っているところから徐々に溶け出すさまが思い浮かんだ。もう逆らっても無駄である。なるようにしかならない。角砂糖は本当に素直である。見習わなければならない。そういえば、長いこと、角砂糖は使っていない。あれを二つ入れて珈琲を飲んでいたときもあった。糖分の取りすぎだ。まだ、売っているのだろうか。久しぶりに角砂糖を買ってみたくなった。
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