2019年6月17日月曜日

●月曜日の一句〔中原道夫〕相子智恵



相子智恵







 アンディ・ウォーホル
スープ罐ずらりどれ乞ふ夏の卓  中原道夫

句集『彷徨 UROTSUKU』(ふらんす堂 2019.2)所収

海外詠のみを収めた第13句集より、ニューヨーク近代美術館(MOMA)での作である。アンディ・ウォーホルのポップ・アート『32個のキャンベルのスープ缶』。掲句は〈ずらりどれ乞ふ〉というさらりとした詠み方でこのスープ缶の世界に飄々と入り込んだ。

大量生産された既製品というのは、消費者は「どれを選ぶか」しかなくて、ある意味で主体性は損なわれているのだけれど、まさにそそれを描いた作品に対して、「それなら大いに迷って選ぶことにしましょう。迷うことも楽しいのだから」と、〈ずらりどれ乞ふ〉でひょいと受け取って、涼しい句を付けた。

〈乞ふ夏の卓〉だから自分がスープを温めることすらせず、〈夏の卓〉で選んだスープを頼んで、ウキウキと待つだけの「圧倒的な消費者」を演じている。その諧謔が涼しくてドライで、この絵画と響き合う俳句だと思った。〈夏の卓〉も、これが他の季節ならこんなポップな感じは出せないだろう。

俳諧も、大衆的な言葉遊びから始まったものであり、ポップ・アートとは時代も国も超えて、響き合うところは案外大きいのかもしれない。

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