樋口由紀子
愛よりも布団があたたかい余生
早川清生 (はやかわ・せいせい)
冬の朝は布団から出られない。目は覚めているのだが、ほかほかの布団から出たくない。ずっとこのまま布団の中でほっこりしてしたいと毎朝思う。
若いころは愛が人生で一番大事なものだと思っていた。愛さえあれば生きていけると思っていたはずである。今になってはそれもあやふやで確証が持てないけれど、たぶんそう思っていたのだと思う。しかし、もう余生。愛のような、よくわからないややこしいものよりは現実的に、単純でわかりやすい布団のあたたかさがなによりありがたいと思う。布団が一番というのは余生の身にしみての実感だろう。しかし、「愛」と「布団」を同じ土俵にあげるなんて、そこに感心する。『よしきり』(平成22年刊)所収。
0 件のコメント:
コメントを投稿