樋口由紀子
それぞれに死者青葱をぶらさげて
石部明 (いしべ・あきら) 1939~2012
年末に堺利彦監修の『石部明の川柳と挑発』(新葉館出版)が出版された。満面の笑みの石部の写真が懐かしい。亡くなってもう七年が過ぎた。
彼はつねづね「川柳で大嘘を書いてみたい」と言っていた。掲句もその極みだろう。まずこの世で死者に会うことはない。まして、死者なんだから、青葱をぶらさげることもないはずである。しかし、この大嘘にまんまとのっかかってみようと思うものがある。彼の創りあげる死者たちは不気味でもなく、恐ろしくもない。ユーモアさえ漂わせ、どこかなつかしく親近感を覚える。彼らはどんな顔をして、青葱を持って、どこに行こうとしているのか。青葱は何を物語っているのか。そんな死者がすぐ近くにいるような気がする。『遊魔系』(2002年刊 詩遊社)所収。
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