2022年12月7日水曜日

西鶴ざんまい #35 浅沼璞


西鶴ざんまい #35
 
浅沼璞
 
 
高野へあげる銀は先づ待て  前句(裏八句目)
 大晦日其暁に成にけり
    付句(裏九句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(元禄五・1692年頃)

【付句】大晦日(おほつごもり)で冬。其暁(そのあかつき)で釈教(弥勒が出世する暁)。其暁―高野山(類船集)。前句との折合を配慮しての「けり留め」(番外編11、参照)。

【句意】無事に大晦日も過ぎ、弥勒の其暁ならぬ元旦の暁になったなぁ。
参考〈一夜明れば、豊かなる春とぞ成ける〉(『世間胸算用』巻一ノ一)。

【付け・転じ】寄進の「銀は先づ待て」という前句の諫言を、大晦日の掛払い(大払い)を控えてのものと見なした。

【自註】商人の渡世いそがはしく、町人の家々は天秤・十露盤の音高く、大帳に付込(つけこみ)、一年中の算用づめとてかしかまし。殊更、夜の明る迄かけまはる事あり。其暁と句作せしは、高野山への付寄(つけよせ)也。

【意訳】商人の大晦日は忙しく、町の家々は天秤・算盤の音も高く、大福帳に収入を記し、一年の総決算とてやかましい。殊に夜の明けるまで集金(掛乞い)に駆け回るケースも多い。「其暁」と句作したのは、「高野山」の縁語として付けたのである。

【三工程】
高野へあげる銀は先づ待て(前句)

大晦日勘定済ますのが先ぞ    〔見込〕
  ↓
大晦日みそ屋こめ屋も済ませたり 〔趣向〕
  ↓
大晦日其暁に成にけり      〔句作〕

前句を、大節季の支払いを控えての諫言とみて〔見込〕、〈どのような借金があるのか〉と問いかけながら、味噌屋・米屋の支払いを済ませたと思い定め〔趣向〕、「弥勒の其暁よろしく無事一夜が明けた」という題材・表現を選んだ〔句作〕。

【先行研究】「新編日本古典文学全集」では〈遣句ふうの付け〉と評されている。
 

「なに言うてんねん。遣句ふう、と見せかけての〈抜け〉やで」
 
確信犯というわけですね。
 
「わしは犯人ちがうで」
 
えーと、犯人と見せかけての〈抜け〉ですか。
 
知らんがな。
 

[註]
この付句と自註には『徒然草』の影響がみらる。詳細は佐伯友紀子氏の「「西鶴独吟百韻自註絵巻」における『徒然草』享受の再検討」(「表現技術研究」四号、二〇〇八年三月、広島大学)に譲る。


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