相子智恵
てのひらのよろこんでゐる寒さかな 南十二国
句集『日々未来』(2023.9 ふらんす堂)所収
掲句にふと立ち止まり、なぜ、てのひらは寒さを喜ぶのだろうか。寒さじゃなきゃ駄目なのだろうか、他の季節だったらどうだろうか……と、ひとしきり心の中で句を転がしてみて、ああ、これはやっぱり「寒さ」なのだなあ、と思う。
冷たい雪つぶてを握る手のひらの感覚、寒さにかじかむ手のひらの感覚、寒さをしのぐために両手のひらをごしごし擦り合わせたり、ハンドクリームをつけたり、手袋をするのもほとんど冬だけだ。誰かと手をつなげばてのひらは温かい。
思えば、こんなにもてのひらから何かを感じ、てのひらに意識が向くのは冬だけかもしれない。
本書には〈飯食へば手のひら熱し冬の山〉という句もあって、これも不思議な取り合わせの冬の句だ。寒い日、温かい食事を食べて手のひらに熱が戻ってくる感覚はよくわかる。手のひらには、冬が似合うような気がしてくる二句である。
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