樋口由紀子
羽根生えるまでははんぺんらしくする
月波与生(つきなみ・よじょう)
関西人なので「はんぺん」はあまり食べない。一度おでんにはんぺんを入れたら、他の練り物を圧倒するほどの、そのあまりの場所取りの、膨れ上がり方にびっくりした。その割には味はいたって淡白。見た目よりはおとなしい食べ物だと思った。
「はんぺんらしく」だから「はんぺん」なのだろうか。それとも別のなにものかがなのか。「はんぺん」ならいつまで経っても羽根は生えないはずだが、人の見方はひとりひとり違う。ここから飛び立つためのそのときまで、飛び立とうなどとは考えていないふりをして、鍋の底におとなしく沈んでいるのだろう。たしかな独自の毒がある。『ライムライト』(2024年刊 満天の星)所収。
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