相子智恵
汚職・邪宗・病む国に立つ黴煙 中嶋鬼谷
句集『第四楽章』(2024.2 ふらんす堂)所収
ストレートな句だ。今の日本に住んでいれば、説明は要らないだろう。あとがきから少し引こう。
〈俳句の世界は概ね平和であり、この国の社会や世界で何が起ころうが関わりを持たないことを俳人の「心得」とするような風潮がある。しかし、そうした「心得」を持った俳人達が、先の大戦中には、最も思想的で最も政治的な「日本文学報国会」に雪崩れを打って参加していったのであった〉
季語は〈黴煙〉である。季語をこういう形で働かせることを嫌がる向きもあるかもしれないが、そんな人々に対しては、上記のあとがきこそが、氏の答えだ。とはいえ、こういう句にどんな季語を選ぶかは難しい。〈黴煙〉ではなく黴が生えた状態、つまり目に見える黴を描くこともできたのだ。
しかし、黴くささと胞子の気配が満ちているものの、実際にはっきりとは目に見えない〈黴煙〉という季語の選択によって、直球の上五、中七が生きるのではないかと思った。「何となくの空気」として、もやもやと立ち上ってはいても、全貌が見えてこない気味の悪い後味が残るのである。
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