相子智恵
献杯は眉の高さに小鳥来る 広渡敬雄
句集『風紋』(2024.7 角川文化振興財団)所収
葬儀や法要のあとの会食の際に、故人を偲んで杯を上げる献杯。言われてみれば、献杯の高さは確かに眉のあたりだ。場面はシリアスであるのに悲しみを全面に打ち出さず、自分たちを俯瞰してみることで生まれるかすかな俳味がある。
小さな渡り鳥たちがやってきている。声だけではなくその姿が見えていることを思うと、都会の斎場ではなく、秋の山に近い場所なのだろう。あるいは斎場などではなく、自宅での法事の場面を想像してみてもよいかもしれない。
親戚や友人らが集まり、きっと空は秋晴れで、山は紅葉している。小鳥たちの声も姿も賑やかだ。この取り合わせによって、故人が愛される人柄だったことや、皆がこの後、賑やかに故人との思い出を語るのだろうな、ということまでもが想像されてくる。悲しみの中に、ふっと救われるような気持ちがしてくる一句である。
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