2025年7月23日水曜日

西鶴ざんまい #81 浅沼璞


西鶴ざんまい #81
 
浅沼璞
 
 
人恐ぢぬ世々の掟の鶴の声   打越
 下馬より奥は玉の摺石    前句
初祖達广問へど答へぬ座禅堂  付句(通算63句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)

【付句】三ノ折・表13句目。 月の座だが、9句目に引きあげているのでここは雑(釈教)。 初祖達广(しよそだるま)=中国禅宗の始祖、達磨大師。 座禅堂=達磨大師の金色の座像を安置してある祖師堂。

【句意】達磨大師は問うても答えずに座禅堂に安置されている(もとより座像なのだから答えはしない)。

【付け・転じ】前句の神域を禅寺の境内に見替え、達磨大師の座像をクローズアップした。

【自註】爰(ここ)は前句を山門に付寄せ、*唐作りの禅寺に見なし、森々として殊勝さ、本堂・**食堂(じきだう)につゞきて***達磨堂の立たせ給ふに仕立て侍る。
 
*唐(から)作りの禅寺=黄檗宗の明朝様式による寺院。
**食堂=本堂の東廊に続く。
***達磨堂=祖師堂。

【意訳】ここは前句を寺の楼門に付けなし、さらにそれを明朝風建築の禅寺と見なし、樹木の生い茂った厳かさ、本堂・食堂に続いて祖師堂を立てなさった様に仕立てたのです。

【三工程】
(前句)下馬より奥は玉の摺石
  森々として殊勝なる山門ぞ  〔見込〕
    ↓
  唐作りなる禅寺の達磨堂   〔趣向〕
    ↓
  初祖達广問へど答へぬ座禅堂 〔句作〕

神社の境内を寺のそれに見替え〔見込〕、〈どのような寺か〉と問うて、明朝様式の禅寺(黄檗宗)とし〔趣向〕、祖師堂に安置された達磨大師の座像に焦点をしぼった〔句作〕。
 
 
神祇を釈教へ転じていますが、反対に釈教から神祇への転じも『大矢数』にありましたね。
 
「……そやったか」
 
はい、〈夜がたりの夢が残りて安楽寺/是も思へば天神七代〉というのがーー。
 
「そら安楽寺は天満宮の神宮寺やから、天神さんにはよう付く。転じ、いうより、付け、やろ」
 
なるほど、神仏習合ですね。
 
「なんや神仏集合いうんは。地口かいな」

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