西鶴ざんまい #91
浅沼璞
八徳を何のうらみに喰割れ 打越
鴻の巣おろす秋の夜の月 前句
平調の笙の息つぎ静にて 付句(通算73句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【付句】
三ノ折・裏9句目。 恋離れ。 秋=平調(ひやうでう)=雅楽十二律の一つ。陰陽五行説により秋季に対応する調子。 笙(しやう)=雅楽の管楽器。15本の竹管の根元にあるリード(簧・した)を吸気・呼気で振動させて音を鳴らす。 息つぎ=息継ぎ。
【句意】
平調を吹く笙の息継ぎは静かである。
【付け・転じ】
鴻の巣材のうち、笙の演奏に役立つ石に注目し、視覚表現から聴覚表現へと転じた。
【自註】
笙をしめすに鴻の巣にある石にて心よき事、古き書に見えたり。是に、むかしは楽人(がくにん)、此の鳥の巣おろしして、彼の石をさがし、重宝となしける。平調は秋の調子なれば、前句の月によせて一句にむすび侍る。
【意訳】
笙(の簧)を湿らすのに鴻の巣にある石を以てすると快い音色になる事が古い書物にみえる。これにより、むかしの雅楽の演奏家は此の鳥の巣をおろして、その石をさがし、貴重なものとした。平調は秋季の調べなので、前句の月に付けて一句にするのです。
【三工程】
(前句)鴻の巣おろす秋の夜の月
笙の簧しめすに石の重宝し 〔見込〕
↓
湿らせて笙の息つぎ静なる 〔趣向〕
↓
平調の笙の息つぎ静にて 〔句作〕
鴻の巣材から、笙の簧を湿す石に注目し〔見込〕、〈どのように石は役立つのか〉と問うて難しい息継ぎもすんなりできるとし〔趣向〕、前句の月にあわせて秋季の「平調」とした〔句作〕。
【テキスト考察】
『新編日本古典文学全集61』には〈笙の演奏でもっとも難しいのが息継ぎのときで、それが笙石のお陰でスムーズにいく〉とあります。
ちなみに『西鶴名残の友』(巻四ノ四)にも、〈此の巣の中にありける石は、笙の舌(=簧)をしめすによしと、古人つたへける〉とあり、鶴翁に雅楽への知識があったことが知られます。
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