2026年2月18日水曜日

●浅沼璞 西鶴ざんまい #91

 

西鶴ざんまい #91
 
浅沼璞
 

 八徳を何のうらみに喰割れ   打越
  鴻の巣おろす秋の夜の月   前句
 平調の笙の息つぎ静にて    付句(通算73句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)

【付句】
三ノ折・裏9句目。  恋離れ。  秋=平調(ひやうでう)=雅楽十二律の一つ。陰陽五行説により秋季に対応する調子。  笙(しやう)=雅楽の管楽器。15本の竹管の根元にあるリード(簧・した)を吸気・呼気で振動させて音を鳴らす。  息つぎ=息継ぎ。

【句意】
平調を吹く笙の息継ぎは静かである。

【付け・転じ】
鴻の巣材のうち、笙の演奏に役立つ石に注目し、視覚表現から聴覚表現へと転じた。

【自註】
笙をしめすに鴻の巣にある石にて心よき事、古き書に見えたり。是に、むかしは楽人(がくにん)、此の鳥の巣おろしして、彼の石をさがし、重宝となしける。平調は秋の調子なれば、前句の月によせて一句にむすび侍る。

【意訳】
笙(の簧)を湿らすのに鴻の巣にある石を以てすると快い音色になる事が古い書物にみえる。これにより、むかしの雅楽の演奏家は此の鳥の巣をおろして、その石をさがし、貴重なものとした。平調は秋季の調べなので、前句の月に付けて一句にするのです。

【三工程】
(前句)鴻の巣おろす秋の夜の月

  笙の簧しめすに石の重宝し 〔見込〕
     ↓
  湿らせて笙の息つぎ静なる  〔趣向〕
     ↓
  平調の笙の息つぎ静にて    〔句作〕

鴻の巣材から、笙の簧を湿す石に注目し〔見込〕、〈どのように石は役立つのか〉と問うて難しい息継ぎもすんなりできるとし〔趣向〕、前句の月にあわせて秋季の「平調」とした〔句作〕。

【テキスト考察】
『新編日本古典文学全集61』には〈笙の演奏でもっとも難しいのが息継ぎのときで、それが笙石のお陰でスムーズにいく〉とあります。

ちなみに『西鶴名残の友』(巻四ノ四)にも、〈此の巣の中にありける石は、笙の舌(=簧)をしめすによしと、古人つたへける〉とあり、鶴翁に雅楽への知識があったことが知られます。

 

2026年2月16日月曜日

●追悼・樋口由紀子 週刊俳句関連リンク集

追悼・樋口由紀子 週刊俳句関連リンク集



金曜日の川柳:ウラハイ
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柳俳合同誌上句会2020 投句一覧 2020-09-06
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西原天気 頻発するカタストロフ 樋口由紀子『めるくまーる』を読む 2019-09-15

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西原天気 親切で誠実な批評 樋口由紀子『川柳×薔薇』を読む 2012-02-12

五十嵐秀彦 私性と虚実柳誌『MANO(マーノ)』第15号を読む 2010-04-25

川柳 「バックストローク」まるごとプロデュース号 2010-03-07
樋口由紀子 川柳に関する20のアフォリズム 2010-03-07

2026年2月15日日曜日

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イベントのレポート

これはガッツリ書くのはなかなか大変です。それでもいいのですが、寸感程度でも、読者には嬉しく有益です。



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2026年2月13日金曜日

●金曜日の川柳〔落合魯忠〕湊圭伍



湊圭伍

※樋口由紀子さんオヤスミにつき代打。



深呼吸してから海を吐き出そう

落合魯忠

海を体内に溜め込むには、長い時間がかかりそうだ。この句の場合とくに、わざわざ深呼吸してから吐き出すほどの量なのだから相当である。ただ海をたびたび訪れる程度ではなく、海上に浮かびながら久しい過ごすことで、波のうねりが少しずつ、しかし着実に全身に染み入った結果という風だ。

そうして溜まりに溜まった海を吐き出すに至った経緯も気になるが、句はそれは語らない。かろうじて「吐き出そう」に決意が読み取れる。そこには吐き出すことへの無念の思いが、あるいはそれとは逆に、海の重みからついに解放されることへの安堵が伴っているだろうか。句の言葉からはどちらでもないように感じられる。いや、どちらでもあるのか。

あえて読みを絞り込むと、かすかな明るみの感覚が、そのかすかさにも関わらずくきやかに表現されていると思う。その明るみの中に、海を吐き出し、過去を手放す瞬間、この人物の脳裏にひらめいた数多の光景を思う。

落合魯忠『句集 オンコリンカス』(私家版)より(「オンコリンカス」は、魚のサケ科の学術名)。

2026年2月9日月曜日

●月曜日の一句〔攝津幸彦〕西原天気



西原天気






舞ふブロンドの髪のサラダよ星条旗  攝津幸彦

《舞ふ》という動きが《ブロンドの髪》だけでなく、座五《星条旗》にまで掛かり、ペタッと平面ではなく、風にはためくさまが目に見える。そこのところが、まずこの句の主成分。

それにも増して《サラダ》。《サラダ》が全体の明度や肌理を調整して、この句を叙景でもなく、事柄の描写でもなく、あざやかな塑像として成立させる。このときの《サラダ》は隠喩でもなく、よくよく考えれば見立てでもない。《ブロンド》と《星条旗》というありがちで安定的なセットに割って入るに、いっけん順当なようでいて、そうでもない。異物感が残る。そこが肝心なのだろう。句が、絵ではなく立体(それこそ「塑像」)として仕上がり、妙味が尽きません。

ところで、星条旗と聞いて、思い浮かべるものはもちろん人によって多様。極東に生まれて暮らす私は、例えば、ジミ・ヘンドリクスのウッドストックでのあの圧倒的な演奏(≫動画)。米国人が The Star Spangled Banner と聞いて思い浮かべるものもきっと多様。何億ものべつべつの想像・連想があって、それこそが象徴たる国旗の作用なのだろう。だから、掲句のこの座五は、そこまでの措辞を定着・念押しするものであるように見えて、茫洋たる多様へと広がっていく作用でもあるようなのですよ。

掲句は第二句集『鳥子』(1976年)所収