2014年7月14日月曜日

●月曜日の一句〔矢野景一〕相子智恵



相子智恵







家といふ立方体を冷房す  矢野景一

『游目』(2014.6 角川学芸出版)より。

冷房は人間のためのものであり、家も人間のためのものであるが、ここには人間の気配がしない。家を詠み込んだ句には「生活」や「家庭」を感じさせるものが多い。こまごまとした日常や、その家族の歴史とともにあるというのが前提になることが多いのだ。しかし掲句の〈家といふ立方体〉という、無機質で俯瞰した捉え方にはハッとさせられた。もうそれだけで、涼しさを通り越して寒寒しさすら感じさせる。

この家、一戸建てよりは、気密性が高く快適な最新のマンションのような気がした。一軒一軒が立方体っぽいし、家と冷房という人工物同士の寒寒しさが際立つ気がするのだ。

もちろん無人ではないのだろう。きっと作者は快適な冷房にあたりながら、外の暑さとはまるで別世界の室内の涼しさに、私たちの現代の生活を俯瞰し、こういう句になったのだと思われる。この句を読むと、夏に怪談を聞いて涼しくなるような、精神的な涼しさがやってくる。それは涼しいというよりも、うすら寒い、ということであるのだが。

0 件のコメント: