2014年7月9日水曜日
●水曜日の一句〔山根真矢〕関悦史
関悦史
冬の雨鬱の字に似てマンドリル 山根真矢
文字の形が何かに似るという句はよく見かけるが、まさか「鬱」の字に似ているものがあるとは思わなかった。「彡(さんづくり)」のあたりが特にマンドリルの頬の襞を思わせる。
日本で見られるマンドリルは動物園の檻に入っているものだろうから大概楽しそうには見えないし、知能の高そうなところ、過剰に混み合った外見と合わせて「鬱」の字に似るにふさわしい。
「冬の雨」は「鬱」に近過ぎ、答えを言ってしまっている気がしないでもないが、マンドリルと「鬱」を並べて、その外見が似ているという発見が一句の肝だから、季語があまり自己主張して邪魔しない方がいいのだろうし、何よりここでの「冬の雨」は、それ自体は思いつきに過ぎないマンドリルと「鬱」の似通いを内面に沈めこむ働きをしている。
語順通り読んでゆけば「冬の雨」「鬱」とあくまで沈んだイメージが先に来て、それがマンドリルに結実してしまうあたり、諧謔の要素もある。《初時雨猿も小蓑を欲しげなり》の現代版というべきか。だが「初時雨」の句にある、他の生き物や気象と関わりながら発される言葉の軽やかな躍動感や生気より、作者の心象・抒情へと傾いている点、この句は現在の俳句の流れの多数派に属する句である。とはいうものの、マンドリルの違和感がじわじわ可笑しくなってくるようでもある。
句集『折紙』(2014.5 角川学芸出版)所収。
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