2016年4月29日金曜日

●金曜日の川柳〔佐々木久枝〕樋口由紀子



樋口由紀子






なのはなのなのはなのなかのはつねつ

佐々木久枝 (ささき・ひさえ) 1940~

表記がすべてひらがなである。<NANOHANANONANOHANANONAKANOHATUNETU>、前半はA音とO音だけ、あとにU音とE音が加わる。音韻の効果はよくわからないが、ぼおっとした景が一気に引き締まったような気がした。

一面に菜の花が咲いている。その痛いような黄色に自分と同じような発熱を感じたのだろうか。漢字にすると〈菜の花の菜の花の中の発熱〉。漢字の方が句の意味はわかりやすい。しかし、句の内容はさほど重要ではないというか、取り立てて言うほどのことを書いているわけではないと言っているようにも思う。わかってしまうことで終わってほしくないためのひらがななのか。それともそんなたいそうなことではなく、彼女らしい遊び心の表れなのかもしれない。ともあれ、不思議な存在感を醸し出している。「aの会」(1980年)。

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